2017年5月19日金曜日

RCEPに対する市民社会からの懸念①インド―労働者はなぜRCEPに反対すべきなのか



201752日~12日、フィリピン・マニラにてRCEPの第18回交渉会合が開催されました。各国からは市民団体や医療団体、労働組合や消費者団体、農民団体など多くの人々が集まり、秘密裏に行なわれている交渉に対する批判を強めました。
ここでは、マニラ会合の前後で出された市民社会からの声明文や分析、アクションなどの報告をお伝えし、RCEPに対する人々の懸念を知っていただきたいと思います。
(内田聖子)

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雇用の危機と自由貿易協定(FTA

労働者はなぜRCEPに反対すべきなのか

インド:Forum against FTAs

インドは深刻な雇用危機に直面している。若者の労働力参入に際して、インド経済は毎年1.21.5クロール*11200万~1500万人)の雇用を生み出す必要があると推定されている。インド経済は毎年この数字の10%未満の創出をしているという調査がある。例えば、政府自身のデータによれば、2016年前半に繊維、皮革、宝飾品、金属、自動車といった労働集約型産業においては、わずか1.68ラック*2168000人)分の雇用しか創出されていない。
画像に含まれている可能性があるもの:5人 しかし、これは新しい傾向ではない。インド経済が最も高い成長率を記録していた6年間(2004年~2010年)でさえ、4.5クロール(4500万人)分の雇用しか創出されておらず、冒頭の推定値と比較すればあと4500万人分の雇用が不足している。雇用がないということだけでなく、雇用のほとんどがインフォーマルセクターであり、組織化されていない産業である。公的なデータによれば、1989年から2010年の間に製造産業で創出された雇用のうち、わずか35%だけがいわゆるフォーマル・セクターであった。この傾向は過去7年間で悪化している。失業率の上昇、インフォーマル化そして労働者や労働組合に対する抑圧(最近のMaruti Suzukiの事例など)は、インドがグローバル経済に着実に統合されることで生じる熾烈な競争の要請であり、またその結果である。いくつかの産業においては、インドの貿易政策がこうした流れをもたらしている。

欠陥のあるインドの貿易政策
 1991年の新自由主義改革以降、外国からインドに流入する製品(工業製品と農産品)や、サービス、企業の投資は激増した。インドも加盟し1995年に設立した世界貿易機関(WTO)と、その後にインドが署名した様々な二国間貿易協定(FTA)の影響により、インド経済は自由化をさらに深めていった。2000年以降、インドは10ヵ国からなるASEANをはじめ、日本、マレーシア、シンガポール、韓国、スリランカ、タイなどとの間で9つのFTAを締結した。これらのFTAはすべて、議会での議論や州政府の関与がほとんどないまま秘密裏に交渉されてきた。

WTOFTAによって雇用が失なわれたか?
 確かに、WTOFTAも、すべての産業において雇用を破壊することに寄与してきた。例えば、2005年までに、インドはWTOでの約束に従い、200種類のコンピュータおよび電子製品の関税を完全に撤廃した。これによって輸入品が大量に増え、もともとあったハードウェア産業は破壊され、そして製造業は単にこれらの製品を組み立てるだけの形へと移行した。
 その結果、数十万の雇用が失われた。その後の雇用機会は、スキルを必要としない組み立て作業のインフォーマル・セクターのものがほとんどだった。
 2014年から2015年の間に、インドの鉄鋼輸入は、インド―韓国とインド―日本とのFTAの結果、輸入関税が削減されたため71%増加し、生産の低下と雇用の減少につながった。
しかし、これらのマイナス傾向にもかかわらず、インドは現在、16カ国のメガFTARCEPを交渉中なのである。

RCEPとは何か?
 RCEPは、アジア16ヵ国の市場開放を一気に目指す自由貿易協定(FTA)である。 ASEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、シンガポール、タイ、フィリピン、ラオス、ベトナム)に、オーストラリア、中国、日本、韓国、ニュージーランドが含まれている。RCEP参加国は、世界貿易の30%、世界人口の50%を占めている。RCEPが実現すれば、世界最大の自由貿易地域を形成することになる。
 RCEPは、農産物、工業製品(医薬品を含む)、サービス、外国投資、競争政策、知的財産権、デジタル経済など、経済の多くの側面をカバーする幅広い協定である。
これまで5年間交渉してきたにもかかわらず、16カ国の間には依然として多くの意見の相違がある。しかし、2017年末までに妥結することが目指されている。

なぜインドの労働者がRCEPに警戒すべきなのか?
 輸入品から国内の製品を保護するために、各国は輸入関税を設定している。RCEPは、加盟国が輸入関税を03%に大幅削減することを要求している。他のRCEP参加国と比較すると、インドは、物品で平均10%、農産物で平均32.5%高い輸入関税をかけている。この関税の削減は、RCEP参加国である中国との貿易にも適用される。インドは中国との間に大幅な貿易赤字(201516年は3兆4500億円)を抱えているが、RCEPが締結すればさらに増加するだろう。

 鉄鋼や重機械を生産している企業は、中国からの輸入品がインド現地での製造業に取って替わることへの懸念をすでに提起している。輸入増加によるこれら産業への圧力は、契約社員や労働者削減などを用いた賃金引き下げにつながっていくだろう。繊維産業や陶磁器、エレクトロニクス産業などでも、やはり中国からの安価な商品の輸入によって悪影響が出るだろう。RCEPは、「アリババ」のような巨大な電子商取引企業が、各国で自由にビジネスすることを許容し、その結果地元の製品や雇用創出を脅かすことになる。
一方、政府はRCEPがいくつかの分野で利益を上げると主張しているが、それは情報技術(IT)産業の上層にいるほんのわずかな専門家にとってだけだ。
 皮肉なことに、IT企業は、タタ・コンサルタンシー・サービス(Tata Consultancy Services2014年の数千人の労働者の削減や、最近のコグニザント・テクノロジー・ソリューション(Cognizant Technology Solutionsの事例のように、すでにインドの雇用を奪い取っている。さらに、オーストラリアやニュージーランドなどの国では、インドのIT専門家のためのビザを制限する政策がとられている。中国、マレーシア、インドネシア、フィリピンは独自のIT産業を発展させており、インドの専門家のために市場を開放することには消極的である。RCEPの条項は、労働法や賃金などを含め、政府が外国投資家に課すことができる政策に制限を加えることになるだろう。
RCEPには、「投資家対国家紛争解決(ISDS)」というメカニズムも含まれている。これは、外国企業が相手国政府の政策および司法上の決定に対して、秘密裏での仲裁廷に訴えることができるしくみである。エジプトでは、フランス企業ヴェオリアが、最低賃金を引き上げるというエジプト政府の決定に異議を唱えた。
同社はフランス-エジプト投資協定に基づき、エジプト政府に11,000万米ドルの賠償金を求めた。このことは、最低賃金や出産手当条項などを定めた労働法に対して、外国企業が自らのコストが増加すると主張し、訴訟費用自体が莫大であるISDSの仲裁廷に、政府を引きずり出すことが可能いなるということである。
RCEPにおいて企業はより強力な権利を与えられ、その結果、医薬品の価格や農業、必要不可欠なサービスの民営化、進歩的な産業政策への悪影響がもたらされるだろう。モディ政権が提案した労働法改革が示しているように、モディ政権は、大資本家とエリートたちと連携して、労働組合運動を弱体化させようとしている。RCEPは、まさにその方向へのさらなるステップなのだ。

どうやってRCEPを止めるか?
RCEP交渉は、秘密裏に進められており、人々や議員には何も知らされない。労働組合は、モディ政権に対して、人々に説明をし、以下のような民主的な手続きの義務を果たすよう求めるため団結しなければならない。

★声を上げよう!
インドは、次回RCEP交渉のホスト国となる。日程は7月下旬(現時点では724日~28日)、テランガーナ州ハイデラバードの予定である。労働組合、農民団体、医療関係者、その他多くの人々による運動が予定されており、ハイデラバードにて、インド政府にRCEP交渉からの撤退を求めるための一連の取り組みが計画されている。あなたの連帯を表明し、このパンフレットを共有し、「なぜ労働者がRCEPを拒否すべきなのか」について伝えてください。

Issued by Forum against FTAs
Email: tradetalks2017@gmail.com

翻訳:内田聖子

*1 インドの命数法で1カロールは1000万を指す。
*2 インドの命数法で1ラックは10万を指す。


2017年3月27日月曜日

日EU経済連携協定に対する市民社会による共同声明

人々の監視から逃れ、秘密裏に妥結をめざす
日EU経済連携協定 

2017年3月21日 ブリュッセル・東京  


 日本と欧州の市民社会団体である私たちは、日EU経済連携協定(JEFTA)に対する深い懸念をここに表明します。
 EUや日本では、貿易協定に関する公開性と説明責任の欠如が、国民の不信感を強めています。
 しかしながら、2013年3月以降、欧州連合(EU)と日本政府は、世界のGDPの3分の1をカバーする包括的な貿易協定を交渉してきています。2016年12月、東京で開催された第18回交渉会合が東京では交渉は近々妥結するかもしれないとされたが、EU側では交渉者に与えられた権限は公表もされておらず、また日本においては交渉については完全な秘密の状態です。 市民社会や労働組合などの団体によって提起された多くの正当な懸念に反して、交渉についてほとんどのことが知らされていません。
 EU側が出した交渉に関する要約に含まれるごくわずかな情報に基づけば、この協定は公共サービスの民営化をもたらす可能性があります。また巨大な外国投資家が、並行的な裁判制度を通じて政府を提訴できる特権を持つこともあり得ます。小規模農家に打撃を与えることや、プライバシーとデータ保護の権利などの基本的権利に対して悪影響を与える危険もあります。行きすぎた知的財産権を元に戻そうとするEUおよび日本の措置が制限されることもあります。政策決定プロセスにおける企業ロビイストの役割を強化することによって、規制当局に追加的な負担を与えかねません。
 EU加盟国と日本の国会議員のほとんどだけでなく、欧州と日本における市民社会組織や労働組合の人々も、交渉されている内容を知りません。協定の草案を見たことも、相談を受けたことすらありません。私たちはこのような不透明性を非難します。
 今日、市民社会の広範なセクターは、労働者や公衆衛生、民主主義、公共サービス、環境に貿易・投資協定が与えるであろう悲惨な影響を非難するために結束しています。TPPやTTIP、CETA、TiSA、RCEPなどの貿易協定の有害性と秘密主義を批判するために、このように数多くの多様な組織がグローバルなレベルで終結したことはこれまでありません。
 欧州と日本において農民や市民、労働者からの信頼を取り戻すために、本声明に署名した組織は、欧州委員会と日本政府に対し、貿易交渉における権限を開示し、すべての交渉文書を公表し、日EU経済連携協定が、多国籍企業の特権を優先するのではなく、人々と環境の保護を第一義とすることを求めます。

【署名団体】

Advocacy and Monitoring Network on Sustainable Development (Amnet): AMネット, Japan
AITEC, France
ALEBA Luxembourg, Luxembourg
Attac Austria, Austria
Attac Finland, Finland
Attac France, France
Attac Ireland, Ireland
Both Ends, Netherlands
Confédération Paysanne, France
Corporate Europe Observatory, Belgium
CRASH – Coalition for Research and Action for Social Justice and Human Dignity, Finland
DIEM25 Finland, Finland
Ecologistas en Acción, Spain
Emmaus Aurinkotehdas ry, Finland
Entrepueblos/entrepobles/entrepobos/herriarte, Spain
Food & Water Europe, Belgium
Friends of the Landless, Finland
Government:
市民と政府のTPP意見交換会・全国実行委員会, Japan
Greenpeace, International
Katholische ArbeitnehmerInnen Bewegung Erzdiözese Wien, Austria
Les Amis de la Terre, France
MAMADEMO (The  group to lift up  voices of young mothers):
ママデモ, Japan
Milieudefensie, Netherlands
Mouvement Ecologique, Luxembourg
National Committee for the Dialogue on TPP between Citizens and the Government, Japan
Natur&ëmwelt a.s.b.l., Luxembourg
New Wind Association, Finland
Pacific Asia Resource Center (PARC),
アジア太平洋資料センター(PARCJapan
People’s Action against TPP:
TPPに反対する人々の運動, Japan
Platform Aarde Boer Consument, Netherlands
PowerShift e.V, Germany
Seattle to Brussels Network, Europe
Stop TAFTA Luxembourg, Luxembourg
STOP TPP Action in KANSAI: STOP! TPP
緊急行動・関西, Japan
TPP Citizen Coalition:
TPPを考える市民の会, Japan
TPP Osaka Network for Citizens:
ほんまにええの?TPP大阪ネットワ-ク, Japan
Transnational Institute (TNI), Netherlands
TTIP Network Finland, Finland
Umanotera, Slovenia
War on Want, United Kingdom

※英文サイトはこちら

2017年3月13日月曜日

"TPPをよみがえらせるな!”―チリ会合を控え、200以上の市民団体が通商担当大臣に訴え

 米国のTPP離脱後、参加各国はそれぞれの思惑を持ちつつ、「TPPの処理あるいは復活」が懸案事項となっています。
 オーストラリアやニュージーランドなどは米国抜きのTPPを主張していると言われますが、チリやペルーなどは中国などを入れて「新たなTPP」への道を模索しています。
 日本は、米国に戻ってきてほしいと願っているようですが、それはまったく現実的ではありません。

 こうした各国の動きが、3月15日からのチリでの会合にて議論されることになっています。
 私たち国際市民社会は、いかなる形であれ「TPPの復活」は望んでいません。TPPがゾンビのように生き返ろうとするのであれば、徹底してそれを潰さなければなりません。

 このたび、米国パブリック・シチズンはじめ豪州、ニュージーランド、カナダなど多数のTPP参加国のNGO等が協力して、「TPPをよみがえらせるな!」と題した国際書簡を提起しました。
 すでに参加国の首脳に提出済みですので皆さまにも改めてご報告いたします。アジア太平洋資料センター(PARC)ももちろん署名いたしました。日本からもたくさんの団体が署名されています。

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201638/9
経済・財政担当大臣 石原 伸晃様
内閣府副大臣    越智 隆雄様

31415日チリ閣僚会合参加各国閣僚宛て公開書簡

米国が撤退をしたことにより、これまで交渉を重ねてきたTPP協定は明らかに死に体となりました。何百万人もの人々から成る広範な労働組合、市民団体、社会運動組織を代表する私たちは、秘密裏に交渉されたTPP協定は、政府の公共のための法規制の権限や市民の基本的権利を犠牲にして、巨大企業に奉仕するものであったと確信するものです。TPP協定はまた、広範な人々の反対にも関わらず、グロ-バル企業に対して、信用に値しない国際仲裁法廷における特権をも与えるものでした。
TPP協定は、人々に対し安心な暮らし、良質の雇用と豊かさを約束するものではありませんでした。また、適正価格で入手できる医薬品、金融の安定、労働者の権利、環境保護や気候変動の緩和を確保するための規制の権限、そして先住民族の権利やその他の基本的人権を守るといった政府の権能を制限するものでした。私たちにはTPP協定は、無いことこそ好ましいものです。
このような理由により、私たちは、WTOを含め2国間、地域、多国間、いかなるものであれ、TPPの規律が将来の通商交渉の規範として使われてはならないと確信するものです。私たちは、閣僚の皆さんに対し、規範としてのTPP協定は失敗に終わったという現実を受け入れ、人とこの地球に重きを置く新たな枠組みを構築するために、私たちと共により開かれた民主的方法で取り組むべきことを強く求めるものです。

以上


【英語版】

Open Letter to Trade Ministers Meeting in Chile, 14-15 March 2017

 It is clear that the withdrawal of the United States means that the Trans-Pacific Partnership (TPP) agreement as previously negotiated is dead. As representatives of many millions of people in a wide range of unions, civil society groups and social movements, we believe that the TPP text, negotiated in secret, served the interests of large corporations at the expense of governments’ rights to regulate in the public interest and of our fundamental rights as citizens. It gave special additional rights to global corporations that were enforceable in discredited offshore tribunals, despite widespread public opposition. The TPP did not deliver on promises of secure livelihoods, good jobs and prosperity. It would have restricted governments’ ability to regulate to ensure affordable medicines, financial stability, workers’ rights, protection of the environment and climate change mitigation, and to protect indigenous rights and other fundamental human rights. We are better off without the TPP. For these reasons, we believe it is not acceptable for TPP rules to be used as a model for future trade negotiations whether bilateral, regional or multilateral, including the World Trade Organisation. We urge you to accept that this model has failed, and to engage with us and others in a more open and democratic process to develop alternative approaches that genuinely serve the interests of our peoples, our nations and the planet.