2013年7月23日火曜日

これは「交渉」ではない―日本は「何に参加するのか」

 719日より、マレーシア・コタキナバルに来ている。
 第18TPP交渉会合の現場は、これまでの交渉と同じように、粛々と、秘密裡に交渉が進められ、その進展内容は外側からは見えない。
 日本の参加がいよいよ明日23日というタイミングとなった。
 2年間、日本のTPP交渉参加に反対してきた者として、言葉では表せない怒りと失望に耐えない。昨日の参院選での自民党圧勝の報せがさらにその思いを強くさせる。

 日本でのTPP報道は、やはり偏っている。現地ではデモもあり、国際NGOらはTPPへの懸念を最大限、交渉官にアピールし、「秘密交渉」に対する監視と批判のまなざしを今回も努力して続けている。しかしそれらの声は何も報じられていない(唯一報じたのは私がチェックする限り『日本農業新聞』と『赤旗』のみ)。私たち反対側の力の足りなさは反省してもしすぎることはないのだが、しかしこうしたマスメディアの状況が、これだけ不利なTPP交渉にまい進する自民党政権を許してきた面もある。
 昨日、今日も、マスメディアでは「日本がいよいよ交渉参加」「聖域を守れるか」などのニュースにとどまり、日本がいかに不利であるかを明らかにした記事はほとんどない。
 
 改めて言いたいのは、日本が参加するのは「交渉」ではない、ということだ。
 すでにTPP24分野での議論は大きくは終了しており、マレーシア政府の発表によると29章あるうちの14章はテキストの策定も終わっている。もちろんこれからいくつかの分野で交渉は進む。しかし日本はそこで何を「勝ち取る」と設定しているのだろうか。
 昨年12月の衆院選にて、自民党はTPP交渉に関する6項目というものを掲げた。すなわち「農産物5品目を守る」「国民皆保険を守る」「食の安全・安心を守る」「国の主権を脅かすISD条項は認めない」等である。これらはすべて「守る」ことを宣言したにすぎず、「●●を勝ち取る」という宣言ではない。私たち反対運動をする側は、「TPPパラノイア(恐怖症)」と、「TPPによる不安を過剰に喧伝する集団」として『NEWS WEEK』(日本版)に紹介されたことがある。しかし、「TPPパラノイア」と呼ばれてしかるべきは、「守る、守る」としか言えない日本政府そのものの姿ではないのか。
 本来、自立した主権国家同士による「交渉」とは、まず交渉において勝ち取りたい内容・目標があり、それを勝ち取るために何らかの譲歩や妥協が必要な場合、「これを差し出すか」というカードを懐に用意して臨むものだ。しかし、100人規模の大所帯の交渉チームを準備し、見かけだけは立派に仕立てあげた日本政府にとっての「勝ち取りたい内容・目標」とは何か。少なくとも政府はそれを国民に指し示す責任と義務があるのだが、この2年間、一度たりとも表明していないではないか。
 なぜか。
 答えは簡単だ。勝ち取れるものはないことが、政府もすでにわかっているからだ。にもかかわらず、「交渉国になること」が目的化している日本政府の姿は、他国の交渉官やNGOなどのステークホルダーにとってみれば、奇妙極まりない。交渉会合に参加して3回目となるが、毎回、私は他国の交渉官やNGO、業界団体にこう問われる。
「日本は交渉で何を勝ち取りたいのか?」と。これが「交渉」に臨む際のまともな感覚というものだろう。
 
いま、日本の報道は一生懸命に「日本が交渉に参加する」「遅れを取り戻す」と伝える。しかし、改めて確認したい。日本が参加するのは、「交渉」ではない。すでに決められたルールに従うだけの「形式」であり、最大の獲得目標は「守ること」、つまりゼロベースの地点であるという、大変におかしな目標設定しかないということだ。交渉参加ではなくむしろ事実上の「全面降伏」といった方が実態に伴っている。

もちろん、こうした状況を放置しておくことはできない。私たちは改めて、参加撤回や批准阻止、そしてTPP交渉そのものへの関与とチェック、批判を続けていく必要があることは言うまでもない。


交渉の進展や具体的な分野の課題については別途触れたいと思う。


2013年7月19日金曜日

TPP交渉会合にて、国際NGOのメディアカンファレンスを開催!(7月20日)

 現在、TPP交渉会合が行なわれているマレーシア・コタキナバルに来ています。前回同様、国際NGOメンバーの一員として、明日(20日)のステークホルダー会合にも参加します。
 日本のメディアも今日あたりから続々と現地入りしているようで、会場のホテルのロビーにいるとカメラを持ったクルーに出会ったり、声をかけられます。国際NGOメンバーの中には、「日本のメディアは交渉官には何も聞けないので、暇なんじゃないのか?」と聞いてくる人も・・・(苦笑)。

 さて今回は、日本の参加が秒読みに入っているということで、大きな取り組みを行ないます。
 国際NGOとして、日本はもちろん他国のメディアに向けての発信の場を設定しました。テーマも「日本の参加問題」と「知的財産分野と人々の健康・権利」に絞りました。

 きっかけは、前日本医師会会長の原中勝征さんがステークホルダー会合に参加されるということでした。私と同様、米国の団体のメンバーとして参加されるのですが、拙速に進められてきた日本のTPP交渉参加に対し、原中さんは医師会会長時代から強い懸念を表明され、現在は「TPPを考える国民会議」の代表として精力的に活動されています。

 一方、今回のマレーシア会合では、知的財産が重要な交渉テーマとなっており、エイズの患者支援団体や、公衆衛生に関わる団体、知財全般に取り組む団体、インターネットの権利問題にかかわる団体などが多く来ています。これらの皆さんの経験や視点、TPPによってもたらされる危険に関して、ぜひ共同して取り組んでいくためにも、今回の場はとても重要な意味があります。今回は「TPPを考える国民会議」とPARCの共同という形で設定をいたしました。

 こちらに来ているメディアにはすでにお知らせを出しました。ぜひ、日本国内に国際NGOの多様な取り組みや、日本が参加した後に交渉はどのように展開していくのか、などについて伝えてほしいと思っています。日本にいる皆さんには、明日のカンファレンスが報道されているか、ぜひチェックをしてください。私からもご報告をお送りしたいと思います。

以下、本日現地から出したプレスリリースです。英文のままで申し訳ありません。

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Media Release

Invitation to the independent conference by International NGOs on the topic of 
Japan's Participation to the TPP negotioation and
The Intellectual Property (IP) & people’s rights and health

Dear colleagues and friends, Media
                                                                                 July 18, 2013 The Citizen’s Congress for Opposing the TPP is an non-governmental , non-partisan organization established in 2012 at the time of APEC Meeting in Yokohama, composed by more than one hundred members of parliament ( both ruling and opposition parties) , researchers and scholars working in the fields of agriculture, health, medicine , food safety and intellectual property.
We have been criticizing the concept and design of TPP per se besides opposing to the participation of Japan to this hegemonic system disguising the expansion of Free Trade regime.
We are apprehensive that TPP might undermine our fundamental social value system and industrial structure in addition to the direct impacts on the agricultural sector and to medical services.
Although Prime Minister Shinzo ABE declared that Japan will participate in the TPP negotiations and that will be approved on July 23 at the Kota Kinabalu conference , there are growing oppositions in Japan , by the Diet (Congress) members (both ruling and opposition parties), Governors of Local Authorities, scholars , researchers, NGOs and citizens. 
As for TPP negotiation itself, “Intellectual Property(IP)” in most important issues at this round, and it is strongly related to people’s rights and health. We are collaborating with International NGOs who had been advocating on the IP issued for a long time. 
We would like to invite colleagues ,friends and journalists to our independent press conference to exchange information on the contents and the results of the negotiation which are kept secret even at this stage, and to discuss the future of TPP negotiation after the participation of Japan.
We look forward to seeing you at our media Conference.

*Date: Saturday,  20th  July
*Time: 16:30-18:00
*Venue:Theater Room , Level 2, Marina & Country Club
            5 minutes from Magellan Sutera Resort by walk 
*Speakers:  
1. Katsumasa HARANAKA 
   (Chairman, Citizen’s Conference Opposing TPP / Former Chairman,
   Medical Association of Japan)
2. Burcu Kilic (Public Citizen)
3. Fifa Rahman( LLB (Hons), MHLPolicy Manager, Malaysian AIDS Council ) 4. Lim Ching Wei( Breast Cancer Welfare Association Malaysia ) 5. Deborah Gleeson( Public Health Association of Australia, Lecturer School of Public Health and Human Biosciences ) 6. Mary Assunta ( Southeast Asia Tobacco Control Alliance )
*Modelator: Shoko Uchida ,Public Citizen/Pacific Asia Resource Center 

*Organiser:  The Citizen’s Congress for Opposing the TPP/Pacific Asia Resource Center(PARC)
2-14-13 Hirakawa-cho, Chiyoda-ku, Tokyo, JAPAN 102-0093
Phone: +81-3-5211-6880, Fax:+81-3-5211-6886  e-mail: uchidashoko@gmail.com 
Mobile; +81-90-7192-7448(Shoko Uchida)


2013年7月15日月曜日

いよいよ第18回TPP交渉が開始 ―焦点は「知財」など懸案分野か

2013715日、マレーシアのボルネオ島コタキナバルにて第18TPP交渉会合が始まった(~25日まで)。
 私は3月シンガポール、5月ペルーに続き、今回も国際NGOの一員としてステークホルダー登録をし、19日~24日まで現地入りする。
 現地からもできるだけ情報やさまざまな動き(特に日本の参加に関して)は発信するが、まずは速報として、20日に行なわれるステークホルダー会合について。
 議長国であるマレーシアの担当局から、ステークホルダー会合にてプレゼンテーションを行なう団体・企業のプログラムが届いた。写真はそのリストである。日本のマスメディアも同じものをすでに入手しているが、おそらくその個別内容が詳細に報道されることはないだろう。その意味では本邦初公開の大速報である。ぜひ見ていただきたい。

7月20日開催のステークホルダー会合でのプレゼンリスト
 ステークホルダー会合というのは毎回の交渉にて行なわれる。TPP交渉参加国(現在は11ヶ国で日本はまだ含まれていない)のステークホルダー(=利害関係者)は事前に参加登録をすることができるしくみになっている。ステークホルダーとは本来は社会に存在するさまざまな業界、企業、市民団体、NGO、労働組合などの総体を示す。しかし、TPP交渉の現場においては、圧倒的に企業や企業連合の割合が高い。このことはすでにいろいろなところでも述べてきたが、毎回平均して約100のステークホルダーが登録をし、約200300名が参加をしている(1団体複数の人間を登録する場合もあるので)。そのうちの8割が企業であり、私たちNGOや労働組合などの市民社会を背景として参加するのは2割と少ない。
 ステークホルダーとして登録すると、TPP交渉会合が行なわれる約10日間のうち1日だけ設定されている「ステークホルダー会合」と呼ばれる日に参加資格を得る。ステークホルダー会合とは、端的にいえば「各国の交渉官とステークホルダーの出会いと交流の場」である。これもすでに述べてきたが、企業にとっては「商談」を進める場であり、私たちNGOにとってはTPP交渉の中で懸念される環境破壊や人権侵害、企業の営利追求による弊害、貧困層への悪影響などを何とか交渉官にアピールする場である。つまりステークホルダーによってその目的と位置付け、主張する内容は驚くほどに異なるのだ。
 この会合の日に、希望するステークホルダーには、自らの主張を訴えるプレゼンテーションの機会を得ることもできる。1団体・企業につき15分と短い時間であるが、与えられた時間は自由に使ってプレゼンテーションをすることができる。もちろん各国の交渉官に対するプレゼンテーションであり、それ自体がその後の関係をつくるきっかけにもなり得る。全ステークホルダーのうちプレゼンテーションを行なうのは半分程度である。シンガポール交渉では約60団体が、ペルーでは約45団体がプレゼンテーションを行った。
 さて今回のマレーシアではどうか。
 まず、登録ステークホルダーの総数は「180」と発表されている。これは団体数ではなくおそらく「登録者数」だと思われる。また先に述べたプレゼンテーションを行なう団体・企業は約30である。つまりマレーシア交渉会合は過去2回の交渉と比べ、前提のステークホルダーの数も少ないし、伴ってプレゼンテーションを行なう数も少ない。全体的にサイズダウンといったところだろうか。
 今回の交渉会合では、これまで懸案だった「知財分野」の交渉が進むといわれている。TPPを早期に妥結したい米国にとって、この知財分野はまさに「アキレス腱」だ。医薬品の特許や映画やキャラクター等のコンテンツ産業の知財保護は、米国あげての「獲得目標」の一つであるが、しかし他国も譲らない。特に今回の開催地であるマレーシアでは、企業の知財保護が強化されてしまえばエイズ患者が安価なジェネリック医薬品にアクセスできなくなるという深刻な問題を抱えている。NGOや患者支援団体はもちろん、マレーシア政府もはっきりと「企業の知財保護には反対」との態度を表明してきている。
 この問題が決着すること、つまり何らかの妥協によって落としどころが見いだせることが、TPP交渉を一歩前に進める大きな要因になっているのだ。
 こうした背景もあり、今回はプレゼンテーションのラインナップを見ても、圧倒的に知財関係のイシューを扱う団体・企業が多い。しかも通常であれば企業・業界団体の方が多いのだが、今回は総数も少ないこともあり、NGOのプレゼンテーションの比率が大変に高い。つまり「企業の知財保護には懸念あるいは反対」を表明するプレゼンテーションの割合が驚くほどに高いのだ(これ自体はいいことだが)。
 以下が国際NGOの仲間たちが行なうプレゼンテーションとその大まかなテーマである。
●オーストラリア公衆衛生協会&La Trobe大学
TPPにおいてアルコールの危険を警告する商品ラベルを守るために―TBT分野との関連で」
●マレーシアエイズ会議等
「エイズ患者にとってのTPPの脅威」
●東南アジアたばこ規制連合
「たばこ規制とTPP問題」
WWFマレーシア
「知財分野における、生物多様性を守るための例外規定について」
●アジアインターネット連合
「デジタル時代の貿易について」

一方、これらの主張と対立をする企業・主要なプレゼンは下記である。
●米国緊急貿易協会(ECAT
 →TPP交渉を熱烈に進める企業連合
●米国工業薬品研究協会(PHRMA
 →米国の主要な医薬品会社が加盟する業界団体
●モーション・ピクチャー・アソシエーション
 →コンテンツ産業の利害(企業側の知財保護)を主張
●インテル社
GE社&米国―アセアンビジネスセンター

 今回はプレゼンの総数も少ないので、これら双方がどのような主張をするのかじっくりと見てきたいと思う。詳細はできるだけまとめて現地から発信します。