2014年4月12日土曜日

TPP交渉の不都合な真実 ―ブルネイ以降、重ねられてきた秘密交渉の数々

 TPP交渉は、日本が参加した20137月以降、それまでの秘密性がさらに強まり、ほとんど「潜伏交渉」とでもいうべき姿になった。10月のバリでのAPEC会合、12月のシンガポールでのWTO閣僚会合など、大きな国際会議が開かれる度に、TPP参加国が並行して集まり、米国はその都度「年内妥結」「最後の大仕事」などと意気込みを見せてきた。しかし、それは今も実現されていない。

 年が明けてからの2月シンガポールでも同じことの繰り返しだ。そしてつい先日の46日、日本政府はオーストラリアとの経済連携協定を大枠合意。それが米国とのTPP関税交渉の際の「牽制球」「歯止め」となると考えているらしい。しかしその思惑はすでに破たんし、直後の日米閣僚会議にて甘利TPP大臣とフロマンUSTR代表との関税協議はまたしても不発に終わった。

「いったい、8月以降に何度、交渉を繰り返してきたと思っているんだ」。
 フロマンも、そしてもしかしたら甘利大臣はじめ日本政府も、このように不満を漏らしているかもしれない。
 そう。それが問題なのだ。
 冒頭で述べたとおり、8月以降、TPP交渉は地下深く潜った。すべての交渉参加国の全分野の交渉官が一堂に会し、約10日間開かれてきた「ラウンド」(交渉会合)は、8月の第19回ブルネイ交渉で最後となった。なぜラウンドが開かれなくなったのかは、当時の米国の思惑による。日本も交渉に参加し、その勢いで「年内妥結」を目指していた米国にとって、2-3か月に一度の大掛かりなラウンドを開いていたのでは間に合わない。ターゲットにしたい国は日本(農産品)、ベトナム(繊維問題・国有企業)、マレーシア(知的財産・国有企業)など限られる。したがって米国にとってみれば、すべての参加国が集まるラウンドなど「時間の無駄」、特定の国と、特定の分野で次々と話をつめて、一気に妥結に持ち込みたい――その結果、ラウンドは「中止」となったのだ。

 これを境に、TPP交渉は恐ろしいほど複雑で見えない動きで進んでいく。二国間交渉、各分野ごとの交渉官のみが集まる中間会合、主席交渉官会合、閣僚級会合――とあらゆるレベルでの交渉が複線化し、政治化していった。挙句の果てには、すべての参加国が集まっているAPECなどの際に、米国が恣意的に特定の国だけを呼びつけ行う「グリーン・ルーム」(WTO交渉にて米国が行った不平等で不正義な交渉スタイル)と呼ばれる交渉までもが出現した。

TPP交渉を追う我々国際NGOも、「いつ、どこで、どの国の誰が、何の分野で」交渉しているか、という複雑な情報をつかむのに苦慮している。各レベル・分野の交渉が同時多発的に参加国のあちこちで開催されているのだから、当然である。これまで19回も重ねられてきたラウンドには、ステークホルダー(利害関係者)として参加各国の企業や労働組合、NGOなどが登録し、参加の機会を得られた。会期中には各国の主席交渉官によるステークホルダー向けの会見も行われる。私自身、2013年中に3度、TPP交渉会合にNGOとして参加してきたが、このようにステークホルダーとして登録できたから可能になったのだ。しかし、もはやラウンドは行われず、それに伴ってステークホルダーが公式に参加資格を得られなくうなってしまった(もちろん企業ロビイストはそれでも交渉の場に行くし、我々NGOも同じように見えない交渉から何とか情報をつかもうと努力しているが)

 さて、本題である。
「いったい、8月以降、何度交渉を繰り返してきたんだ!?」。
 これは交渉する側がいうべき不満ではなく、私たちTPP参加国の人々こそが、知らされるべきことであり、またその秘密性を問うべき点である。
 米国NGO・パブリック・シチズンら私たち国際NGOは、20137月以降(つまり日本が交渉参加して以降)の秘密交渉の詳細を調査した。以下、特徴的な結果をご紹介したい。

■多国間交渉
閣僚会合 2
主席交渉官会合 3
中間会合(分野別会合) 17

2国間交渉(秘密度が高いため特定は困難であるが)
日米協議 少なくとも10回(合計で18回以上との分析もある)
  
■ブルネイ・ラウンド以降の各種交渉を日数に換算してみると
中間会合 47
閣僚会合 8
主席交渉官会合 15
二国間交渉 16

 驚くべき数字である。
 これだけ重ねてきたにもかかわらず、まとまらない「交渉」とは何なのか。たとえば企業が計画したプロジェクトが、関係者などとの調整がつかずこのように延々と実行されなかったとしたら、「もう無理」と判断されるだろう。TPP交渉参加国は、すでに3年間以上、そしてブルネイ以降はほぼ1年近く、膨大な時間と費用を使ってきている。経済合理性という観点からいっても、この交渉は「もう無理」ではないか。
 このデータは、さらに詳細に詰めた後、改めて広く発信していく予定なのでご注目ください。



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