2017年7月7日金曜日

【日欧EPA 大枠合意】 欧州委員会は、日欧EPAの交渉テキストを一部公開。日本政府はただちに情報開示をせよ


 昨日(7月6日)、日欧EPAの「大枠合意」に達したことは多くのマスメディアが報じています。これまでも日本では「チーズとワインが安くなる!」という話で埋め尽くされ交渉の全体像がまったく報じられません。
 しかし本日、EU側では重大な情報公開がなされました。
 7月6日、欧州委員会は「EUと日本の貿易協定:大筋合意のテキスト」と題したページを公開しました。 ここには「合意の概要」「ファクトシート」「インフォグラフィックス」と並び「交渉テキスト」(一部)が公開されました。 http://trade.ec.europa.eu/doclib/press/index.cfm…

’(なお日本政府は「大枠合意」という、あまり聞き慣れない単語を今回使用し
ています。しかしEU側文書では「The Agreement in Principle」であり、私は
「原則的合意」と訳しています。「大枠合意」という単語を使うのは、おそらく、より交渉が進展したかのような印象があるためでしょうか)

 まず「原則的合意の概要」。15ページからなるこの文書は、今回の「合意」の全体像が説明されています。すべての章に触れているわけではなく、以下の章の説明があります。

 1)関税
 2)非関税措置
 3)原産地規則
 4)サービス
 5)企業統治
 6)政府調達
 7)知財
 8)地理的表示
 9)競争/補助金/国有企業
 10)貿易救済
 11)技術的障害
 12)税関/貿易円滑化
 13)国家間紛争解決
 14)衛生植物検疫
 15)持続可能な開発
 16)中小企業

 「原則的合意の概要」では農産物や自動車の関税の話だけでなく、非関税分野(ルール)に関する重要な合意内容が読み取れます。欧州委員会は、国会議員や市民社会からの秘密交渉についての批判に応える形で、本日の「原則的合意」を発表するタイミングでこれらの文書を公開したのです(事前に公開する旨の告知もありましたので欧州NGOや私たちも知っていました)。

 今回の「大枠合意」は、米国のトランプ大統領に向けたプレゼンスでもあり、EU側は英国のEU離脱を意識し、日本側は安部政権のポイントUPを狙うというそれぞれの思惑の上で成り立った「政治的合意」です。これを実現するために、日本は農産物をはじめいくつかの分野でTPPあるいはそれ以上の譲歩をしていると見られます。
 しかし、交渉は終わったわけではなく、特に未解決分野は今後も交渉が続きます。そうした中で、EU側は、曲がりなりにも大々的に世界に「原則的合意」を発表するのだから、情報公開も伴わなければ加盟国政府・議会、そして欧州市民に説明がつかないと判断したわけです。この判断は極めて当たり前のことだと言えます。

 例えば、「原則的合意の概要」には、次のような記載があります。
「本協定のいくつかの章はまだ交渉中である。投資に関しては、投資自由
化などいくつかの部分では基本合意がなされているが、章全体での合意には今も至っておらず、投資紛争解決の問題については完全に未解決である。EUは日本との交渉で、改革された投資裁判制度(ICS)を提案してきた。EUは旧式のISDSに戻ることはできないことを主張し続けている。いかなる条件の下でも、合意の中に旧式のISDSを含めることはできない。この点についての結論に達するためには、今後数か月間でさらなる議論が必要だ」

 このような議論になっていること、日本がTPP型のISDSに固執して難航していることなど、私たちは決して日本政府の側から説明されたことはありません。

 さらに7月6日、欧州委員会は「概要」に加え、数分野の交渉テキストも同時に公開しました。3月時点で「規制の協力」「中小企業」の2章を欧州委員会が公開したことは拙ブログで紹介した通りですが、今回さらに交渉テキストの公開が進んだわけです。 http://uchidashoko.blogspot.jp/2017/06/epaup.html

★欧州委員会が公開した日欧EPAの交渉テキスト:
 ・貿易救済
 ・貿易の技術的障害
 ・衛生植物検疫
 ・税関と貿易円滑化
 ・サービス貿易(一般規則、越境サービス貿易、自然人の移動、規制枠組、例外)
 ・投資 (自由化章)
 ・資本の移動、支払い/送金
 ・企業統治
 ・持続可能な開発
 ・中小企業

 これだけのテキストの公開は大きな「進歩」でしょう。もちろん全分野ではないので不十分だと欧州NGOは指摘しています。

 翻って、日本政府はどうなのでしょうか。外務省WEBには岸田外相とマルムストローム氏の記念写真等はありますが、内容に関する情報はありません。
 もちろん日本政府は、農業団体や自動車業界はじめ財界・業界団体などには東京であれ現地であれ、ある程度の説明はしています。TPP交渉の際もそうでしたが、「妥結前」ともなれば農水省が数百ページの「説明書」を持って現地でJA幹部にブリーフィングをしています。
 しかしそれでは「国民に説明した」ことにはなりません。欧州委員会を手放しで評価することはできませんが、日本政府より圧倒的に情報開示が進んでいることは事実です。せめて欧州委員会と同等の情報開示を日本政府はする責任があります。

 唯一、農水省は早速情報をあげていました。http://www.maff.go.jp/j/kokusai/…/fta_kanren/f_eu/index.html 
 しかしTPP並みの(品目によってはTPP以上の)譲歩です。またEU側の発表資料と突き合わせて考察する必要がありますね。これでまた「対策予算」と言ってバラマキをするのでしょうか。

 欧州委員会が公表した「合意の概要」および交渉テキストは、急ぎ翻訳あるいは分析をしたいと思っています。拙ブログにすでに「日欧EPA」コーナーをつくって関連資料や投稿を載せていますが、こちらに随時掲載していきます。
http://uchidashoko.blogspot.jp/p/rc.html

以上

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